あの後、サポート要員なども含め動ける者を集めて夜の森に向けて出発した。 ちなみにロシェのことは俺の従魔のレオシェードだと紹介している。 レオシェードというのはこの前図鑑で見つけたハイドキャットに似た種類の獣だ。 ハイドキャットを知っているものでなければ気付かれはしないだろう。 バレるリスクはあったが、この状況で強力な戦力を外したくはなかった。 森の外で待機していた冒険者の案内でしばらく進むと戦闘音と思われる音が聞こえてきた。既に戦っている人がいるらしい。「よし、俺達も行くぞ!」ハクシンさんがそう言って真っ先に向かっていった。 俺達も各自配置についてサポートの準備を始めた。 そうしてコクテンシンが他の冒険者から離れたタイミングで、ハクシンさんが黒切に手を掛け鍔音を鳴らした。 ハクシンさんが動くタイミングは予め伝えられていた。 そのタイミングに合わせて俺もライトをを発動させた。しかし――(は、早い!)俺が考えていたよりハクシンさんの動きは素早く、俺の放ったライトはかなり手前、ちょうどハクシンさんが通り過ぎようとしていた辺りを照らした。 その手に握る黒切がライトの明かりを受けてキラリと光る。 俺のミスを他所に他のメンバーが予想地点にライトを放ち、コクテンシンがハクシンに向けて放った漆黒のブレスの軌道が見えた。 ハクシンはそのブレスを躱すと、そのままコクテンシンに斬りかかった。 しかし、コクテンシンも直前にハクシンの持つ刀の違いに気づいたのか、それを受けない様に大きめの動作で回避した。(もしかして俺のせいで気づかれた?くそっ。何とか挽回しないと)咄嗟に魔銃の照準をコクテンシンに合わせる。コクテンシンはちょうど俺がライトで照らした辺りに着地しようとしていた。 引き金を引きライトニングの魔弾が放たれるのと、コクテンシンがこちらに振り向くのはほぼ同時だった。(しまっ・・・!?)後悔は遅く、コクテンシンは迫る魔弾を飛び上がって避けつつそのまま俺に向かって飛び掛かってきた。何とか回避を、と思ったがそれも遅く、既に目
「あたいが来た時にはもうこの状態だったからね。幸か不幸かまだチャンスは残っているともいえる状態さね」 「黒切、ですか」 「あぁ、まだアイツは黒切の存在はしらない。ハクシン達の怪我が治ったら、今度こそこいつで仕留めてやるさ」 「でも、そのブレスのせいで近づくのも難しいんですよね?その対策は必要じゃないですか?」俺の発言に二人は難しい顔をする。もちろん二人も考えていなかったわけではないのだろう。その上で良い案は出ていない様だ。「昼間や森から連れ出すのは難しいんでしょうか?」 「アイツは人間を危険だと認識しているからな。自分が不利になる場所では決して戦おうとしねぇ。昼間は森の奥で身を潜めている。安易に追い詰めてこの周辺から離れられたら元も子もねぇ。それに怪我した俺達が何とか森を抜けだした時もあいつは深追いしてこなかったくらいだ。おびき寄せるのも難しいだろうな」確かに。数年前の戦いでも命の危機を悟ったコクテンシンは冒険者達から逃げきったのだ。昼間に倒そうと追い詰めたら別の地域に移動してしまう可能性はないとは言い切れない。「それならいっそ倒さずに森を立ち入り禁止にして、コクテンシンが出てこないように警備だけ強化するというのは?」カサネさんが別の視点からそのように提案してみたが、それにもハクシンさんは否と答えた。「そうもいかねぇ。アイツは明らかに人間に恨みを持っている。これ以上力を付けたらいずれ必ず人間を襲うようになるだろう。そうなる前に倒すしかない。 ・・・昔、俺達が討伐依頼を受ける前ならその選択肢もあったかもしれんがな」 「仕方ないさ。あの時にはコクテンシンの危険性なんてアタイらにも分からなかったんだから」 「す、すみません。そんなつもりでは・・・」 「いや、悪ぃ。余計なことを言っちまったな」その場に僅かに気まずい空気が流れた。 切り替えるようにカランダルさんが対策の件に話題を戻した。「その話は一旦置いておこう。今はどうするかだよ。状況的に夜の森以外で戦うのは難しい。そして灯りなんかを置いても壊されて終わりだろう。魔力の明かりなら壊され
不思議な老婆との取引を終えて、元々の目的だった大樹も見ることができた俺達はメイル大森林を抜けてサムール村への旅を再開した。 しかし、メイル大森林を離れてしばらく経っても、俺はなんとなくもやもやしたものを抱えていた。「まだあのお婆さんのことが気になってるんですか?」例の首飾りを眺めながらぼ~っとしていた俺にカサネさんがそう声を掛けてきた。「う~ん。まぁそれもだけどこの首飾りもな。俺達に必要になるって言ってたけどどういうことなんだろう?」 「先ほど見せて貰いましたけど、パッと分かるような特別な力があるようでもなさそうでしたし、今考えても分かりそうにはないですね」 「やっぱりそうだよなぁ」カランダルさんにも見て貰ったが同じような感じだった。 カサネさんの言う通り、今考えても答えは出ないだろう。ただ、あの老婆の言葉が気になった俺はマジックバッグに仕舞う気にもならず、袋に入れて腰に下げておくことにした。首に掛けなかったのは見た目的に目立ち過ぎるからだ。その後は特に変わったこともなくユムリ港から再び船に乗り、二日掛けてヒシナリ港まで戻ってきた。「今回はクラーケン出ませんでしたね」 「あぁ。まぁあんなのが毎回出てきたら堪らないけどな」 『慣れたとはいえやっぱり船の揺れは嫌ね。陸の有難さを実感するわ』二回目で早くも船の揺れに慣れて酔いはしなかったロシェだが、港に到着するとそんな風に感想を漏らしていた。 まぁ人間も普段から船に乗っている者でなければ同じ様なものだ。 そんな感じで思いのほか早くレインディア大陸に戻ってきた俺達は、さらに数日を掛けてようやくサムール村へと到着した。 しかし、そこでは予想外の形で二人と再会することになった。「ハクシンさん!大丈夫ですか?」 「なんだ、アンタらも来てくれたのか。カランダルも久しぶりだな。この通りどうにか無事だよ。アイツに上手いことやられちまったがな」冒険者ギルドで話を聞いた時には、ハクシンさんがコクテンシンにやられたと聞いて慌てて診療所までやってきたのだが、どうやらそこまで酷い怪我ではなさそうだった
その後、食事を終えた俺達はメイル大森林へやってきた。 聞いていた通り森の獣達の中にはそれなりに危険なものも居たが、装備を更新したこともあり苦戦するほどのものではなかった。 そうして深い森を進んでいくと、そのうち辺りの木々が子供に見えるほどの大樹がその姿を現した。 それは思わず圧倒されるような佇まいだった。幹の太さは優に人の十倍以上もあり、樹の天辺は枝葉に隠れて見えない。いったいどのように育てばこのような大樹になるのだろうか? 俺が樹の天辺を見つめてそんなことを考えていると、足元から聞き覚えの無い声が聞こえてきた。「あんた、良ければ買っていかんかね?」驚いて声のした方を見ると、そこにはローブを身に纏った小柄な老婆が木製と思われる首飾りをこちらに向けて差し出していた。 驚いたのは突然声を掛けられたから、ではない。声を掛けられる直前まで索敵スキルに反応がなかったのである。他の皆も同様らしく、驚きながらも警戒した様子でその老婆を見ていた。「あんたいったい何者だ?」 「そんなに警戒せんでもよかろうに、私はただの物売りじゃよ。それよりどうするね?」答える気はないらしい。とはいえ敵対する様子でもない相手にいつまでも気を張っていても仕方ないだろう。それよりは気になっていることを聞くことにした。「何で俺なんだ?それに物売りという割に商品はそれしかないみたいだけど」 「アンタらにはこれが必要となる気がしたから。それだけじゃよ。アンタに声を掛けたのは・・・まぁ、偶々じゃ」返ってきた答えもよく分からないものだった。というか半分は答えになっていない。とはいえ、ここまで言われると気にはなってしまう。その首飾りの中央には緑色の宝石の様なものが嵌められていた。 この老婆から悪意を感じなかった俺は、交換して貰うために手持ちのものからいくつかの商品を取り出した。「この商品のいずれかと物々交換でも構わないか?」 「ふむ。・・・ほぉ、この木彫り細工はこの辺では見ないものじゃ。これを貰おうかの」彼女が選んだのはリブネントで仕入れた木彫り細工の一つだった。
翌朝から再びフォレストサイドへ旅を続け、三日程度で到着した。 道中魔物や獣との戦闘が幾度かあったが、カランダルさんもやはり強かった。 Aランク冒険者は伊達ではないということだ。 ちなみに、俺もこちらの大陸で戦っている間に能力のレベルがいくつか上がっていた。少し前まで交換で他人から貰ったスキルは成長しないのか?と考えて不安になっていた時期もあったので一安心だ。 今の能力はこのようになっている。-------------------------------- 魔法:ライトニングLv4、ディグLv2、ライトLv4スキル:斬撃耐性Lv2、罠察知Lv5、罠外しLv4、索敵Lv2、スラッシュLv2 --------------------------------スラッシュは試してみたことはあるのだが、流石に魔銃で発動させることはできなかった。魔銃がメインの現状だと上げるのは難しいと思っている。 罠察知、罠外しは元々のレベルが高かった上にダンジョンでないと使用する機会がほとんどないため、これもしばらくはそのままだろう。街に入り、ヤミネラさんの鍛冶屋の前までやってくるとカランダルさんが鍵を開けて扉を開けてくれた。「あ~やっぱりですか。これじゃお客さんが来てもろくに商品を見ることもできないじゃないですか・・・」店の中は以前見た時とほとんど変わりなかった。 カランダルさんは身近なところから整理し始めていた。「あ、店内を好きに見て貰って気に入ったものがあれば教えて下さい。よほどのものでなければ黒真鉄の代金内に収まると思いますから」そう言いながら整理の作業に戻っていった。勝手にあんなに動かしたら怒られそうな気がしたのだが、止めても無駄だろうなと思い口にするのは止めておいた。 その後店内を二人で見て回り、カサネさんは小型のクロスボウと矢を、俺はいくつかの属性ナイフを選んだ。 カサネさんは元々複数属性を扱えるため遠距離物理攻撃手段の確保、俺は近距離で相性の良い攻撃手段の確保という訳だ。 カランダルさんに見て貰い問題ないということで、
日も暮れて野営の準備を始めた頃、ようやくカランダルさんが目を覚まして起きてきた。「ふわぁ・・・もう夜なんですね。だいぶ眠ってしまいましたか」 「おはようございます。って言って良いのか時間的には困りますけど、ゆっくり休めましたか?」 「えぇ。お蔭さまでだいぶすっきりしました。あ、野営の準備手伝います」 「いえ、起きたばかりですしもう少しゆっくりしていて下さい。準備ももうすぐ終わりますから」 「そうですか?では、お言葉に甘えさせて頂きますか」そういうとカランダルさんは近くに腰かけてのんびりと空を見上げた。 今日は満月だ。柔らかな明かりで照らされ周囲も比較的明るい。「あ、起きられたんですね。おはようございます」そこに薪拾いに行っていたカサネさんが戻ってきた。「えぇ、ゆっくり休ませて頂きました。そういえば装備の方は試されましたか? できれば感触など聞いておきたいのですが」職人としては自分の仕事の成果は気になるものなのだろう。 俺達は昼間の戦闘で感じたことをカランダルさんに伝えた。「そうですか。ちゃんとお役に立てたようで何よりです。明日からは私も勘を取り戻すためにも戦闘に参加しますね。まぁ向こうに着くころにはコクテンシンの件は終わっていそうですけれど」 「そういえばカランダルさん達はAランクパーティなんですよね?ハクシンさんは戦っているところを見せて貰ったことがあるんですけど、ヤミネラさんとカランダルさんはどんな戦闘スタイルなんですか?」 「ヤミネラはクロスボウを使ったサポートタイプだね。流石にスキルまで勝手には話せないけど、それも含めてと考えて貰えばいいよ。私はカサネさんと同じ魔導士だよ。主に火属性と闇属性を得意としてる」前衛一人、中衛一人、後衛一人って感じか。三人パーティとしてはバランスがよさそうだ。「以前にコクテンシンと戦った時にはもう一人、回復や補助を得意とするメンバーが居たんだけどね・・・その時の怪我がもとで引退してしまったんだ。 時々手紙でやり取りする限りでは、今は地元で元気にしているみたいだけどね」カ